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春まだ浅い小石川植物園で園足(えんそく)を、の話【東京】

春の嵐が吹き荒れた春分の日。東京都文京区にある小石川植物園を訪れました。
その日、私は、母校の農学部教授が植物園を案内してくださるというイベントに出席したのですが、プロと一緒に回る植物園がこんなにも面白いのかと、目から鱗が落ちる様な体験をしました。
本日は、その時のお話。


小石川植物園って?

正式名称を東京大学大学院理学系研究科附属植物園と言います。
前身は、徳川幕府が設けた「小石川御薬園」。主に薬を作ることを目的として開園されたようです。
都会のど真ん中、東京都文京区に16ヘクタールという広大な敷地を有し、現在も植物学の研究の場・教育の場として多数の植物の育成・標本や書籍を所蔵しています。

出発前に。。。

まず、先生に植物園の3つの機能についてお話をお聞きしました。
いわく、
①植物の収集(保存)・展示
②植物に関する教育・普及
③植物に関する専門的な調査・研究
の、三つの重要な機能です。

古来、我々は植物を食物や薬として使ってきました。
小石川植物園も、元は薬草園であり、有用植物の収集保存と研究という目的を持って開園されたのです。
我々が植物園と聞くと、真っ先に思い浮かべるのは、美しい花々が咲き乱れるフラワーパークですが、植物園は研究機関としての大きな役割を果たしているのだそうです。

精子で受精する蘇鉄と銀杏

さて、それでは先生と一緒に植物園を巡る旅に出発です。
まずは、入り口近くにある蘇鉄。
蘇鉄は裸子植物でオスの木と雌の木がある事はよく知られています。
明治29年にここで蘇鉄に精子がある事が発見されたと書かれています。
高等植物は全て花粉で受精するのだというのがその当時の学者たちの考えでした。
高等植物の蘇鉄や銀杏に精子があると言い出した先生は、最初は「そんなバカな」と笑われたのだと言います。
それでも研究を重ね、ついにここで蘇鉄と銀杏に精子がある事が発見されました。

精子のワードに気が散ってはいけません。
これは、エロ話でも猥談でもなく、笑われても信じた道を進み、ついに世紀の大発見をした学者の偉業を讃えるものなのです。

鹿児島から贈られたソテツ
大発見の銀杏の木の下に立つ石碑

小石川植物園の桜

私が訪れたこの日は春分の日だというのに日本中に春の嵐が吹き荒れていました。
各地で強風が吹き、雪が降った地方もありました。
本来なら、そろそろ早い桜が咲いているかなと期待半分に行きましたが、まだ蕾は固く、もう少し先の開花の準備をしている状態。

ほんのり桜色トンネル
染井吉野のつぼみはまだ固い

先生は、立ち止まり、固い蕾の桜の木の下に立って桜の説明をしてくださいました。

今、私たちが桜と言って思い浮かべるのは染井吉野。これは、桜の木の中の一つの品種に過ぎず桜の品種には様々なものがあるそうです。
染井吉野は濃いピンクの小さい花咲かせる江戸彼岸と、白っぽい大きな花を咲かせる大島桜のハイブリッド、親たちのいいところを受けついだ雑種なのです。
ただ、雑種ゆえに種子から育てられない。だからいま日本にある染井吉野の木はみんな挿し木によって広まったものなのだとか。
美しい花を咲かせる染井吉野も、近年は病気が蔓延していて50~60年後には見ることが出来なくなるかもわからないという悲しいお話も聞きました。
染井吉野よ、最後まで潔く一斉に散るのね。

今週くらいには一斉に咲くのでは?
大島桜の葉は桜餅に使われる

ニュートンのリンゴとメンデルのブドウ

小石川植物園には珍しい植物がたくさんあります。
ニュートンが万有引力を発見したリンゴの木やメンデルのブドウの木もあります。
特に、メンデルのブドウの木は元の木が枯れたので小石川植物園から逆輸入されたという興味深い話も聞きました。

あっちにあるよ

貴重な植物が栽培される温室

小石川植物園には温室もあります。
ここは学術研究用に、絶滅危惧種の栽培も多数行われていて色分けしてラベル掲示がされています。

植物の保全のための大切な取り組み

さらに、絶滅危惧種は環境が整ったら採取されてきた場所にきちん戻すために、ラベルには採取してきた場所の情報も書き込まれていました。

小笠原父島のムニンツツジ
センカクツツジも保全されています

色とりどりの花が咲き乱れているわけではありませんが、きれいな花も咲いていました。

ホヤ サクララン
この花の名前はおそらく学名で書かれていたので読めなかった。。。

綺麗な花々の中で、異彩を放っていたのはショクダイオオコンニャクです。
この花は世界で一番大きい花の一種で、何年にもわたって茎をのばし、ある日地面から出てきた蕾が開くのだそうです。その花は茶色で、とても臭いのだとか。なぜ匂うのか?それは、受粉するために虫や鳥をおびき寄せるためなのだそうですが、臭い花は花粉を託す相手にハエを選んでいるのだそうです。ちらっと、私の心の声が聞こえます。『なんで、それを選ぶねん』

先生のお話では、かなり臭いそうなので、珍しい大きな花を見てみたかったりそうでもなかったり。。。
大きい花がめちゃくちゃいい香りを放つというのが私の理想だけれど、それはそれでホラー映画のシーンのような気もする。。。

つぼみ、ミョウガみたいなんですけど

流転の洋館 旧東京医学校本館

小石川植物園の広い園内には、これ以外にも、たくさんの植物が栽培され守られ研究されています。

その植物たちの間を抜け、広大な植物園の一番奥に日本庭園と洋館がありました。
この建物は、当初は東京大学の前身である東京医学校の施設として1876年に本郷キャンパス鉄門の正面に建てられ、1911年に赤門わきに移築、さらに1969年に小石川の現在地に移築されたのだそう。
擬洋風建築の珍しい建物です。
擬洋風建築とはまだ西洋建築の技術が日本に入ってくる前に大工さんたちが見よう見まねで作った洋風建築物の事です。現在は、龍谷大学大宮学舎本館や滋賀県近江八幡市の白雲間などで同じ様式の建物を見ることが出来ます。

旧東京医学校本館は、現在、国指定重要文化財となっているのだそうです。
この日は、公開されていなかったので中を見ることは出来ませんでしたが外から見るだけでも素敵な建物で、建てられた当時の明治の風を感じることができます。

映画のワンシーンのような眺め

植物園にて思う

午前中は晴れていたこの日も、午後になると急激にお天気が悪化し、強い雨と雹が降ってきたので、そろそろ楽しい園足は終わりです。
ただ美しい花々を眺めるだけではなく、プロから植物の解説を聞きながら歩く植物園は驚きの連続で、とても貴重で興味深い体験ができました。
次回から、植物園の見方が変わるかもしれません。

先生は「みんな、精子しか覚えていてくれないんだよなぁ」って残念がっておられたそうですけど、ちゃんと学びましたよ~。


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