『バース』　夢のようなフル金田アクションアニメの誕生！

■監督：貞光紳也
■1984年
■80分

「金田伊功」と書いて「かなだいこう」と読む！
お名前の本当の読み方は「かなだよしのり」さんだが、ワシ界隈はもちろん、当時のアニメファンは「いこう」さんと呼んでいた方が多かったんじゃないかと思う。
そんな私たちにとって、この金田伊功さんというアニメーターが、どれほどのスペシャルなスーパースターだったか。

キャラだけでなく背景もアニメでガンガン動かし、まるで翼の生えたカメラマンが撮ったかのように縦横無尽に回り込み、ズームしまくるアクロバティックな映像！
カッコつけたい時みんなマネしてた、両手を広げ、手首をクイッと内側に曲げるポーズを若干あおった角度から独特のゆがみをつけて見せる「金田パース」！
何の光なんだかよくわからんがとにかく凄い派手で迫力の「金田びかり」！
キャラクター設定をフリーダムに破壊する、監督泣かせのクセがすごい独特のデフォルメ！

私のような80年代のアニメファンはみんな『幻魔大戦』は言わずもがな、『風の谷のナウシカ』を観てても、『天空の城ラピュタ』観てても、OVA版『デビルマン』観てても、何を観てても「あ！今のシーンは金田さんの作画だ！」と一瞬で分析できる自慢の特殊能力「金田アナライズ」を自然に身に付けてしまっているのである。
金田伊功さんという方は、我々をそんな誇り高きサイオニクサーにしてくださった、特別なスーパースターアニメーターなのだ。

その金田さんがすべてを手がけ、あのオンリー１な天才の技が全編に炸裂した「夢のようなフル金田アクションアニメが誕生！」と当時大変な話題になり、すべてのアニメ誌が激推し、劇場公開もされたOVAがこの『バース』である。
監督のクレジットは貞光紳也さんになっているが、私も含め多くの方が「バースは金田伊功さんの作品」という認識だったと思う。

富永みーなさんのお声にも悶絶必至の「お尻っこヒロイン」ラサがバイクに乗って登場するシーンでさっそく炸裂するフルスロットルの金田アクションに開幕早々「待ってました！」とテンションMAXまちがいなし！

その後もラストまで惜しみなく金田アニメのすべてが炸裂！
特にバイクチェイスのアクセル全開っぷりは凡百の作品とはやはり別格の迫力のぶっちぎり度。
リミッターをはずした金田さんの凄さを期待どおりたっぷり堪能できるだろう。

作画スタッフのクレジットも、庵野秀明さん、前田真宏さん、大貫健一さん、内田順久さんなどなど大物の名がズラリ。
そして音楽は久石譲さんというジブリばりの豪華さである。

しかしこの『バース』という作品。
たいへんな話題作であったのと同時にちょっと問題作でもあった。
金田アクションアクセル全開なのは良しとしてもハンドリングがちょっと安定しなかったというか、大変失礼ながらストーリーにちょっと難ありというかストーリーがほぼないというか。
ラサやナムの主人公たちがイノガニックというメカ生命体と戦うという大まかな流れはあるのだが、劇的なクライマックスとカタルシスを生む「起承転結」のような練られた構成はなく、「転転転結」という感じで、ひたすらドタバタ転がり続けて終わるのである。

その終わり方も「ん？何かイデオン級のカタストロフィーが起きてしまったみたいだけど…どゆこと？金田アクションのスピード感が凄すぎて何か大事なトコを見逃したかナ？」と若干ポカンとなるだろう。

このラストに関しては、宇宙スペースナンバー１脚本家の首藤剛志さんが手がけられた小説版で、挿絵＆あとがきを担当なさった金田伊功さんご自身が「わかりにくかったでしょ？ごめんなさい」と謝罪。そして補足解説をしておられる。
つまり「アーリアという女性の体内に発生したガン細胞であるイノガニックを討つべく、健全な細胞であるラサやナムたちが戦ったが敗北。
しかし、彼らは転生。聖剣（シェード）の中に宿り、新しい冒険へと旅立った…」というようなイメージらしい。

…と、このように解説を読んでも若干ポカン感はあるものの、見応えは充分すぎるほどあり、OVAの歴史においてもとても重要な作品。
さすがにDVD化はされているのだが、なにしろ高い！
正規の動画配信やレンタルにより、もっと安価で簡単に誰でも観れるようになるべきだと思う。

ところで私は本稿を書くにあたり、このたび本作の中古VHSビデオを購入。
付属のライナーノーツに「あの大物」が寄稿しており、しょーもなくて大変面白かったので、最後に転載させて頂きます。